看護師が働く場所が多様化するなかで、現在では在宅分野として新卒から訪問看護師として働く人や、転職してキャリアをスタートする人も増えてきています。今回は、訪問看護師の業務内容と病院や在宅との役割の違い、訪問看護に関する資格、1日の業務スケジュールについて解説します。
病院ではない、在宅の場で働く訪問看護師
看護師が活躍する場は病院などの医療機関のなかだけではなく、在宅の場にも広がってきています。病気や障がいがあっても、住み慣れた家で暮らしたい。このようなニーズを実現させるためのサービスとして、訪問看護があります。在宅医療の制度や環境も少しずつ整えられ、訪問看護や診療などのさまざまなサービスを使い、自宅にいながら治療を行う、人工呼吸器をつけていても自宅で療養できるようになるなど、ここ10年で在宅医療の現場も大きく変化してきました。訪問看護師について、業務内容や役割、訪問看護の現状、関連資格、さらには1日の業務スケジュールなどをご紹介します。
訪問看護師の役割と特徴
訪問看護をとりまく現状
訪問看護はここ10年は、訪問看護ステーションに係る医療費と介護給費ともに増加しており、特に医療費の伸び率が大きくなっています。また、訪問看護ステーションの数も2010年以降5,674カ所から11,145カ所と2倍となっています(2021年6月15日の時点では13,003カ所)。反対に訪問看護を提供する医療機関の数は、2010年の2,066カ所から1,428カ所と年々減少しており、利用者数も減少傾向にあります。
利用者の特徴
また、訪問看護ステーションの利用者疾病別内訳としては、脳血管疾患が15.4%と最も多く、次いで筋肉骨格系が9.0%、認知症(アルツハイマー病含む)が8.6%、悪性新生物が8.3%となっています。また、訪問看護の内容をみると、医療処置に係る看護は全体の60.6%となっており、その内訳で多いものをみると、病状観察が93.6%、本人への療養指導が57.5%、リハビリテーションが52.1%となっています。また、緊急時対応は8.8%、ターミナルケアは1.9%です。
対象者に関しては、地域や事業所によってばらつきがあります。高齢者が多いエリアや、精神科や小児科に特化した事業所などもあるため、それぞれのステーションの特徴をまずはよく調べましょう。
病院と訪問看護の業務内容の違いは?
病院と訪問看護、その違いはさまざまありますが、まず大きく違うことは、病院の医療は「治す医療」であることです。病院には検査や手術などの医療設備が整っており、医師や看護師などの専門スタッフが常駐して365日24時間集中的な治療を受けることができます。しかし、病院では治療が優先されるため、患者さんは我慢や不自由を強いられることもあるかもしれません。外来通院している場合も、診察は数分程度なので、薬を飲めているか、体調についても実際の生活をみることはできず、患者さんや家族からの言葉でしか判断できないこともあります。
一方、訪問看護などの在宅の医療は「支える医療」ともいえます。在宅医療では、利用者さんの自宅を医師や看護師が訪れ、利用者さんの生活を中心に動いています。実際に利用者さんや家族と直接話ができ、食事や服薬などの生活の様子を把握しやすいことがメリットとしてあげられます。利用者さんの個別に合わせた細かいサポートがしやすいのも在宅医療や訪問看護のメリットです。
病院と訪問看護、どちらかが優れている、劣っているという二者択一で考えるものではなく、それぞれに得意・不得意な部分があり、状況に応じて使い分けされることを理解しておく必要があります。
働く人の環境の違い
病院 | 訪問看護 | |
勤務時間 | 365日24時間体制 夜勤ありシフト |
基本的に日中の訪問 夜間や土日祝日は休みまたはオンコール体制 |
勤務形態 | 常勤・非常勤 非常勤では時間給や日給が多い |
常勤・非常勤 非常勤では時間給や訪問件数制をとっているところが多い |
受け持ち | 7人前後(急性期病棟の場合) | 1日の訪問件数は5~7件程度 |
関わる職種 | 医師、医療事務、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、臨床工学技士、ソーシャルワーカーなど医療職種など | 医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、ケアマネジャー、病院・施設看護師、役所関係者など |
病院だと365日24時間体制で、夜勤ありのシフト勤務であることが多いでしょう。訪問看護の場合には、基本的に日中の訪問で、夜間や休日は休み、またはオンコール体制をとっているところが多いです。パートでは時間給や訪問件数によって給与が決まることもあります。訪問看護は1日5~7件と訪問件数が時間で決まっていて、時間休などがとりやすい傾向にあります。
訪問看護師の給料・平均年収
ナース人材バンクのデータをもとにすると、
・平均年収は370~430万円前後
・給料は月収で30万前後
であることがわかります。
地域や事業所などにより幅があり、一般的には夜勤手当がない分、病棟勤務より年収はやや下がる傾向にあります。しかし、24時間365日体制の事業所もあり、オンコール手当や出動手当などによっては増えることもあります。
訪問看護師に求められるもの
訪問看護では、看護師が利用者さんの自宅に訪問をして、主治医の指示により看護ケアを行います。病気や障がいがあっても自宅で暮らせるようにと多職種と連携しながら療養生活を支援します。訪問看護師としての役割としては、身体的・精神的な看護ケアはもとより、療養環境の相談、家族への相談・アドバイス、必要に応じてさまざまなサービスの紹介、他職種や医療機関との連携など、利用者さんの希望に沿った療養生活を実現させるために支援や調整を行います。疾患の理解や看護ケアの技術だけではなく、社会資源などの理解、他職種とのコミュニケーションスキルや調整力、柔軟に対応する力なども重要となってくるでしょう。
訪問看護に関する資格
訪問看護に係る看護師が取得している資格をご紹介します。
在宅ケア認定看護師(旧:訪問看護認定看護師)
在宅ケアに特化した認定看護師の資格です。2021年5月からは新しい認定看護分野となり、従来の訪問看護認定看護師から名称が変わりました。生活に焦点をあてたQOLの維持・向上とセルフケア支援、在宅療養移行支援、多職種との調整・協働、意思決定支援とエンド・オブ・ライフケアなど、地域で支える看護の実践家・指導者の育成を目的としています。
資格条件をクリアするためには、看護師免許取得後、実務経験が通算5年以上あり、うち3年以上は認定看護分野の実務経験と認定看護師教育機関へ入学・修了する必要があります。
在宅看護専門看護師
訪問看護に係る資格は専門看護師の資格です。在宅で療養する利用者とその家族の支援、在宅看護における新たなケアシステムの構築やケアサービスの連携促進を図ることなどが分野の特徴としてあげられます。また、専門看護師としての実践、相談、調整、倫理調整、教育、研究の6つの役割があります。
資格条件をクリアするためには、看護師免許取得後、実務経験が通算5年以上あり、うち3年以上は認定看護分野の実務経験と看護系大学院修士課程修了(2年)していて、専門看護師教育課程の所定の単位を取得している必要があります。
介護支援専門員(ケアマネジャー)
介護保険法に規定された専門職であり、名前の通りケアマネジメントを担う専門職です。要介護者または要支援者からの相談に応じ、要介護者がと要支援者に合ったサービスが利用できるよう市区町村やサービス事業者との連絡調整、ケアプランの立案などが主な業務となります。看護師の場合には、保健医療福祉分野での実務経験が5年以上であり、介護支援専門員実務研修受講試験に合格し、介護支援専門員実務研修の課程を修了、介護支援専門員証の交付を受けて介護支援専門員となることができます。各種サービスの勉強目的やケアマネジャーとの連携をよりスムーズにするために、資格取得を目指す訪問看護師もいます。
訪問看護師の1日の業務スケジュール
訪問看護ステーションによって利用者さんをどのように担当しているかは異なります。まずは、受け持ち制。一人の看護師が一人の利用者さんを担当します。次にチーム制。チームごとに担当する利用者さんがいて、自分以外にも状況を把握しているスタッフがいる状況になります。看護師の人数が多い事業所などではチーム制を導入していることが多いです。
訪問看護師の一般的な1日の業務スケジュールを見ていきましょう。
訪問看護師の1日の業務の流れ
時間 | 業務内容 | 詳細 |
9:00 | 始業 全体ミーティング |
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9:30 | 午前訪問 |
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12:00 | 昼休憩 |
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13:00 | 連絡調整や記録 |
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16:30 | 午後訪問 | 午前と同じく2~3件の訪問 |
17:00 | 帰室 |
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13:30 | 終業 |
その他の仕事
オンコール当番がある訪問看護ステーションでは、月に何度かオンコールを担当します。オンコールは必ず訪問しないといけないわけではなく、電話相談、報告で終わることもあります。事業所によって手当や待遇などはさまざまですが、緊急訪問した場合には、報酬や代休が保障されているところもあります。また、看護師や利用者さんが多い大規模事業所では、オンコールをメインとサブの2人体制をとり、フォローを手厚くしていることもあります。事前に体制についてはよく調べておきましょう。
在宅ケアのプロ、訪問看護師になるためには
まず、地域の訪問看護ステーションまたは病院と併設している訪問看護ステーションの訪問看護部門に所属することで、訪問看護を行うことができます。訪問看護師になるためには、臨床経験が何年かあったほうがいいと話題にあがることもありますが、最近では大手訪問看護ステーションでは新卒を受け入れて教育体制をしっかりと整えているところもあります。また、臨床経験に不安を感じている場合には病院と連携し、交換留学のような形で病棟や外来などの経験を一定の期間積むことができるところもあります。訪問看護ステーションの教育体制がどこまで整っているかよく調べておきましょう。
訪問看護師の業務内容と役割を理解し、キャリアの可能性を広げる
在宅の患者さんや重症度の高い患者さんも増えてきている現状で、訪問看護師の役割はとても大きなものとなっています。また、在宅への訪問だけではなく、介護施設や学校、作業所などでも必要な人が訪問看護をうけられるような動きもあります。地域で暮らしつづけることを支援する看護師として、キャリアの可能性を広げてみませんか。