救命救急センターや地域・在宅医療の現場などで幅広く活躍する診療看護師(ナース・プラクティショナー、NP)。どのような役割をもちどのような場で働く看護師なのかといったキャリアイメージに加え、養成教育の課程も含めてご紹介します。
診療看護師とは?新しいキャリアの可能性と資格の取得方法
さまざまな看護師の資格やキャリアがあるなかで、ここ10年で新たな取り組みとして注目されているのが診療看護師(ナース・プラクティショナー)ではないでしょうか。現在制度を整えるため、国や日本看護協会などの関連団体が動いていることもあり、実際の役割や資格の取得方法を理解できている人は少ないかもしれません。看護師の新しい働き方、キャリアの可能性を秘めている診療看護師についてきちんと理解し、キャリアアップの選択肢を広げましょう。
救命救急や在宅でも活躍できる診療看護師の役割と制度の概要
診療看護師は医師や薬剤師などの他職種との連携、協働を図り、一定レベルの診療を自律的に行うことを役割としています。病院や在宅の現場では、患者さんの症状マネジメントをタイムリーに行うことで、病気の重症化を防ぎ、患者のQOL向上を図ることができると期待されています。
診療看護師の養成教育が開始されたのは2008年。大分県立看護科学大学大学院修士課程で開始されたのが日本ではじめての取り組みでした。同じく大学院修士課程で育成される専門看護師(CNS)とは、業務範囲や裁量権が異なり、業務拡大を目指す目的で診療看護師の育成がスタートしました。元々は米国などで医師の指示がなくても一定レベルの診断や治療を行うことができるNurse Practitioner(ナース・プラクティショナー)という看護師の資格があり、海外の医療現場でも浸透しています。しかし、現在の日本の法律では、医師の指示のもと医行為を行うため、診断や処方を行うことはできず、米国などのナース・プラクティショナーに相当する資格はありません。日本では新たに制度を整えているところです。
診療看護師の養成教育をしている団体
日本では現在、診療看護師は国家資格ではないものの、診療報酬の獲得や国家資格を目指している民間資格となります。資格を認めているのは、日本NP教育大学院協議会と日本看護系大学協議会の2つです。また、2008年10月に設置したNP協議会では、以下の「診療看護師(NP)に必要とされる7つの能力」を決定しました。
①包括的な健康アセスメント能力
②医療的処置マネジメント能力
③熟練した看護実践能力
④看護管理能力
⑤チームワーク・協働能力
⑥医療・保健・福祉システムの活用・開発能力
⑦倫理的意思決定能力
日本NP教育大学院協議会や日本看護系大学協議会では、診療看護師の基本的能力として7つの能力を備えることを目指して教育を進めています。
診療看護師(ナース・プラクティショナー)をめぐるさまざまな名称
診療看護師に関する名称はさまざまなものがあり、認定団体や所属施設によって違うため、混乱するかもしれません。まず、多く知られている診療看護師(NP)は日本NP教育大学院協議会が認めている資格の名称です。日本看護系大学協議会が認めているものは、ナースプラクティショナー(JANPU-NP)としています。そして、日本看護協会が創設を目指しているナース・プラクティショナー(仮称)などもあります。これは日本看護系大学協議会と日本NP教育大学院協議会、日本看護協会の三団体で制度創設を目指している看護の国家資格です。
他には国立病院機構ではJNP(Japanese nurse practitioner)、藤田医科大学ではFNP(Fujita nurse practitioner)などと施設ごとに名称を決めているところもあります。今後名称に関しては、制度が整備されていくなかで変わっていくかもしれません。常に最新の情報をチェックしましょう。
診療看護師資格は国家資格?取得方法と給与・待遇
資格取得方法
前述の通り、診療看護師は国家資格ではありません。資格をとるためには、2つの団体が関わっていて、日本NP教育大学院協議会が認めている診療看護師(NP)と、日本看護系大学協議会が認めているナースプラクティショナー(JANPU-NP)があります。診療看護師になるためのステップとしては、以下の通りです。
・看護師として5年以上の実務経験を積む
・指定された大学院のNP養成コースで2年間、修士課程で学びながら実習を行い、課題研究を行う
→大学院修士課程ではプライマリ・ケア、クリティカルの2つに大別され、そのなかから専攻
・NP資格認定試験に合格(日本NP教育大学院協議会、日本看護系大学協議会が認定するもの)
受験可能な試験領域は、大学院修士課程で専攻した下記の領域の中の一つとする
※海外のNPの免許取得者も受験条件としてある
診療看護師は5年ごとの更新が必要です。更新のためには、日本NP教育大学院協議会と日本看護系大学協議会ともに教育現場を含む臨地実践2000時間以上、診療看護師としての教育や研究活動、社会活動の実績として基準をクリアする必要があります。日本NP教育大学院協議会では、2011年からNP資格認定試験を実施し、2020年3月で487名の合格者を社会に輩出しています。
給与・待遇
大学院で2年教育課程を修了し、その後医療現場に戻った際、給与や待遇には変化があるのか、気になるところです。施設によってその待遇はさまざまですが、看護師としての基本給に数万円プラスされて、診療看護師としての手当がつくところが多いようで年収アップにも寄与します。また、待遇として病院の場合には、所属が診療部(医師と同じ部署)か看護部になるかは施設によって違うようです。診療部所属になると、看護師とは少し違う給与・待遇となるかもしれません。そして、看護師のように日々の受け持ち患者を持って行う看護業務ではなく、研修医や医師とも協働して、担当患者を受け持ち、医師のカンファレンスに参加したり、時には病棟を超えて回診したり、他職種と連携するなどしています。診療看護師になってからの実務経験がない場合には、研修医と同じように1~2年の臨床研修を設けているところもあるようです。
特定看護師とは何が違う?特定行為に係る看護師の研修制度との違い
特定看護師は資格の名称ではなく特定行為研修を修了した看護師のことを指します。一方、診療看護師はNP資格を有しており、前述の通り取得には大学院のNP教育課程を受講する必要があり、その過程を受けるにも実務経験が5年以上あることが条件です。
診療看護師を語るなかで、特定行為研修、特定看護師との違いについてよくわからないという方も少なくないかもしれません。特定行為とは、看護師の診療の補助の範囲内で、医師による手順書により行う38行為のことを呼びます。特定行為に係る看護師の研修とは、国が法律上位置づけた制度です。NP養成コースでは、この特定行為区分の研修もカリキュラムに組み込まれているため、修了することができるのがポイントです。
広がる診療看護師の活躍の場
診療看護師としての活躍の場は救命救急や急性期病院だけではなく、在宅や施設などにも広がってきています。日本NP学会の令和3年度の学会会員名簿をみると、所属は大学、総合病院から診療所、訪問看護ステーションなどがあります。まだまだ活躍の場としては病院が多いようですが、今後は急性期だけではなく、在宅の分野やへき地医療での活躍も期待されていくことでしょう。ただし、診療看護師の募集要件には特定の団体のNP資格取得者または見込みであることが明記されているところもあるため、注意が必要です。
診療看護師の仕事と役割を理解し、キャリア形成の選択肢に
今後制度が整備されていくことで、少しずつ身近で働く診療看護師が増えてくるかもしれません。診療の補助に関してもっとタイムリーに患者さんと関わりたい、臨床でキャリアアップしたい、医師と協働して働きたいと考える看護師にとって、魅力的なキャリアです。役割と取得資格を理解し、キャリア形成の選択肢として考えられるようにしましょう。